「…あたまいたい……」
「そりゃ熱が38℃もあれば痛いに決まってるわよ。完全に風邪ね…」
「大丈夫か、麻子…?」
体温計にうつされた数字を見て亜衣里は呆れたようにため息をつき、隣にいた悠大は心配そうに麻子を見つめた。
そんな2人に「ごめん…」っとかすれた声で麻子は呟いた。
fare well [2]
「別に謝らなくてもいいって。でも、麻子が風邪ひくなんて珍しいわね」
普段は元気一杯天然っ子なのにねぇ…。
プニプニとベッドに横になっている麻子の頬をつつきながら亜衣里は笑った。
亜衣里の言葉に麻子は風邪を引くようなことになってしまった原因を探ってみる。
もしかして、この前暑いからって布団なしで寝たのが悪かったの…!?
「あ!亜衣里何やってんだよ!麻子は病人なんだぞ」
「あーはいはい」
「…やっぱり早く治さないと、ダメだよね……」
こんな状態で敵に襲われたら危険だ。
仲間がいるとしても、自分の身は自分で守らなければいけない。
足手まといにだけは、なりたくない…。
そんな考えが麻子の頭の中をグルグルと回っていた。
「麻子……」
だから心配そうな悠大の声も麻子には聞こえなかった。
その時、
コンコンッ
「悠大、亜衣里、麻子。会議室に集まれ」
「あ、うん。分かった」
「何かあったのか?」
百合子は亜衣里をみた後、悠大の方を見て小さく頷いた。
そして、麻子に視線を向けると
「……やはり、麻子は寝ていていいぞ。その体で起きあがるのは辛いだろう?」
「ん……、ごめんね、百合……」
「気にするな。行くぞ、亜衣里、悠大」
「うん。ちゃんと寝てるのよ、麻子!」
「すぐ戻ってくるからな」
出て行く亜衣里と悠大に軽く手を振り、麻子は悠大たちの遠ざかっていく足音をぼんやりと聞いていた。
「早く治さないと……」
誰もいなくなったその部屋で麻子はそう呟き、瞳をとじた。
* * *
「麻子、入るぞ」
ぼんやりとした意識の中で響いた悠大の声に麻子は瞑っていた目を開けた。
そして、ベッドの側までやってきた悠大に目を向ける。
「…悠、大……どしたの……?」
眠っていたせいか、上手く言葉が出てこない。
それに心なしか先ほどより熱が上がったような気がする。
「……麻子、大丈夫か?」
「だいじょう…ケホッケホッ…」
咳をする麻子を心配そうに見つめていた悠大は彼女から目を逸らし静かに言った。
「麻子、あのな」
「……ん…?」
絡まない視線が何を意味するのか、麻子には分かっていた。
「敵、倒しに行ってくる。すぐに帰ってくるから」
ねぇ、悠大。
はっきり言って、いいよ……?
『もうここには戻ってこない』って。
嘘をつくとき、あなたは私の目を見ない。
「…気をつけてね。いってらっしゃい」
「うん」
麻子の笑みに答えるようにかすかに笑って悠大は部屋を出て行く。
「………っ……」
やだ!いかないで、悠大…――!
パタン…ッ
扉の閉まる音がやけに大きく聞こえた。
そして、少しずつ小さくなっていく足音。
「しょうがないことなんだから……、お願いだから……っ!」
お願いだから、
涙よ、止まって。
こんな状態の私がみんなについて行っても足手まといになるだけなんだから。
でも
「…ゆう、だい…っ……!!」
あなたと、ずっと一緒にいたかった。
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