武器屋の女主人[3]
「地下にこんなところがあるなんて…」
「信じられない……」
「確かにここじゃアイツラにも見つからないな」
「それよりも、美希さんはどこかしら」
暗い上に狭かった地下通路から開放された悠大たちは淡い光に包まれたその空間に目を瞠(みは)った。
どうやってこの部屋を作ったのかも不思議だったが、今はそんなことを気にしているときではない。
こうしてここまでやって来たのは美希に会うためなのだから。
その目的の人物を探すように、彼らはぐるり、と部屋を見まわした。
と、その時。
「あいりお姉ちゃんだっ!」
ドンッという衝撃と共に聞こえた懐かしい声に亜衣里は口元をゆるめる。
「鈴華ちゃん」
「お姉ちゃんひさしぶり〜!」
自分のちょうど腰の当たりで屈託の無い笑顔を浮かべる鈴華に周りの者も声をかけていく。
「大きくなったなぁ」
「元気でしたか?」
諒や靖史たちも微笑みながら鈴華の頭を優しく撫でた。
そして、再開の挨拶が一段落したところで梨奈が鈴華に訊ねる。
「鈴華、美希さんは何処?」
「あ!あのね、お母さんがね『奥の部屋にいる』って!」
「そう、ありがとう」
珍しいことに梨奈は滅多に浮かべることのない柔らかい表情をしていた。
* * *
「美希さん」
名前を呼ぶと彼女は口元に笑みを浮かべて振り向いた。
「来たわね」そう言うと扉のところに立ったままの梨奈達――厳密に言えばこの部屋に来たのは、悠大、靖司、亜衣里以外の者たちだが――に向け手招きする。
「美希さん。その……リンはまだ記憶が戻っていないのか?」
ソファに腰掛けた龍二が部屋の向こうで亜衣里たちと遊んでいた鈴華を思い出しながら、少し言いづらそうに訊ねた。
彼の問に悲しそうとも苦しそうともとれる笑みを浮かべる美希。
「まだ、戻らないわ。けれど戻らない方があの子にとっては幸せなのかもしれない…」
それでも、
"お母さん"
眩しいほどの笑顔でそう呼ばれて、胸の痛まなかった日が果たしてあっただろうか?
もうこの世にはいない親友の、大切な、大切な宝物だったあの子。
早くふたりを思い出して…―――
でも、
思い出したら、きっとあの子は壊れてしまう。
『あの時』は記憶を封じることで自らを守った。
じゃあ2度目は…?
2度目はない。きっと壊れてしまう。
両親が目の前で殺されたことは、あの子にとって重すぎる出来事だから。
思い出してほしい。
でも、思い出してほしくない。
矛盾した想いは鎖となって私を縛り付ける。
「――美希さん」
すいません、そう呟いたのは龍二だった。
自分の問は、美希が抱える心の傷を開くことになってしまった。
頭を下げる龍二に美希は笑みを向けた。
「アンタが気にする必要はないから」
だが笑った顔とは裏腹に美希の瞳はどこか遠くを見ていた。
"…美希…リンを…っ……鈴華をおねが、い………!"
あれが親友と交わした最後の言葉となってしまった。
悲しげに歪められた瞳はゆっくりと閉じられ、
すべての思いを断ち切るかのように美希は深く息を吐いた
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