「はじめまして、三木神楽です。今日からお世話になります」


さらさらと風になびく色素の薄い髪の毛に、整った顔立ち、そして、人の良さそうなやわらかい笑み。
人の目を引く要素盛りだくさんの彼を、案の定見つめてしまうわたし。
でも、男の人だなんて聞いてないよ、母さん!




2.初めまして、仲良くする気はないけれど




まって。

確かにあのマイペースな母親は女の人なのか男の人かは言ってなかったけれど、この展開はやっぱりあり得ないと思うの。
だって良い年頃の女がこれまた年頃の、しかも全く面識のない男と同居って、色んな意味で危ないでしょ?
(間違ってもわたしが襲われるという事態は起こらないでしょうけどね)
しかし彼を追い返すわけにもいかない。
どうしたもんかと考えていると、


「はぁい、秋ちゃん。部屋の片づけはもう終わったぁ?」
「ごめんね、秋。急な頼み事して」


三木神楽の横からにょきっと現れたのはわたしの両親。
相変わらず能天気な様子の母とわたしに対する申し訳なさをにじませている父。
突然の出現に多少驚きながら、それでもひそかに安堵の息をつく。
どうしていいかわからなかった三木神楽の扱いは両親に任せればいい。


「秋、紹介するよ。こちら、三木忍さん。神楽君のお父さんだ」
「はじめまして。あなたが秋さんだね」
「はっはじめまして。楢崎秋です」


父が示した先には父と同じ年くらいのスーツを着た男性。
その人は三木神楽とよく似た笑顔を浮かべ、よろしくねと頭を下げた。


「このたびは私の急な頼みごとを聞いてくれてありがとう。そして今日から息子がお世話になります」
「はあ」
「実は私、今日からヨーロッパに長期で出張なんです。でも息子を一人で家にいさせるのはどうも心配で」


もう大学に入学するっていうのに、ちょっと過保護じゃないですか、三木さん・・。


「もう、父さん。そんなに心配しなくても大丈夫だって言ってるのに」
「いや!おまえ1人では家がどうなるかわからん」


三木神楽が口をはさむが父君はきっぱりと言い切った。
家が、って何するんですか、その人・・!
初対面の男の人との同居という不安に加え、父君の意味深なお言葉にダブルで不安が襲いかかる。
本当にやっていけるのか?わたし。


そんなこんなで、三木パパはあの後すぐ空港に向かい、ヨーロッパへと旅立った。
そしてうちの両親も三木神楽の引越しの片付けをそこそこ手伝った後爽やかな笑顔を振りまきながら(主に母)帰って行った。





「お昼は引っ越しそばでいいかな?」
「あ、はい。お気遣いなく・・」


一応彼に確認を取ってから母が準備していたそばをお盆に載せる。
というか母さん、準備良すぎ・・。


「おまたせー。はい、どうぞ」


彼の前に置くと彼はありがとうございます、と軽く頭を下げた。
彼と出会って少ししか経っていないが、何とかやっていけそうだという希望をわたしは彼の礼儀正しさから見出していた。


「改めて、これからよろしくおねがいします」
「・・・・悪いけど」


へ?


「仲良くするつもりはないから」


笑顔で毒を吐いた彼。

二重人格じゃないよね・・・?


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