「悪いけど、仲良くする気はないから」
思わず自分の耳を疑ったのはもう何時間も前。
3.当番じゃんけん、勝者はどっち?
「当番決めるよ」
「はあ??何の当番だよ」
二人がけのソファに威張って座っているのは、紛れもなく朝とてもやわらかな笑顔を浮かべていた人物である。
だが今の彼の顔には笑顔の欠片も浮かんでいない。
むしろ眉間にしわが寄っている。
何がどうなってこうなってしまったのかというと…
早い話が、こいつは父親の前では猫を被っていたのだ。
そして、こいつの演技に(容姿にも)見事に騙された両親(わたしもだけど)は快く同居を承諾してしまったと言うわけ…。
「食事当番とか、お風呂掃除とかいろいろよ!」
でもここまで性格が悪いとは夢にも思ってなかったな。
「そんなの、あんたがすればいいんじゃん」
「(むかっ)郷に入っては郷に従えって言葉をご存じないのかしら、神楽ちゃんは」
「....」
無 視 で す か 。
「聞こえなかった、神楽ちゃん?ここでの郷はわたしなの、わ・た・し!」
「....」
「あっ、もしかして・・・神楽ちゃんこのことわざの意味知らなかった!?てっきり知ってるものと思ってたから、ごめんね、神楽ちゃん」
『ちゃん』を強調してにっこりとほほ笑む。
そしてやっとのことで神楽ちゃん顔をこちらに向けることに成功した。
話すときはちゃんと相手の人の目を見ましょうね!
「っ神楽ちゃん神楽ちゃんうるさい!!おれは女じゃないんだからな!」
「男の子を"ちゃん"付けで呼んではいけないって決まりがどこにあるのかしらね、神楽ちゃん」
なんだか無性に自分が嫌な性格のような気がしてきたが、仕方がない。
これもすべて、わたしが少しでも楽をするため...!許せ、神楽ちゃん。
「〜〜っっ!!・・・わかったよ!風呂掃除でも何でもすればいいんだろ!?でも後で後悔するなよっ」
「はいはい、後悔なんてしませんー。・・・じゃあ、行くよ」
構えたわたしにつられて神楽ちゃんも立ち上がる。
それは試合開始の合図。
「「・・っ最初はグー!!!」」
「「じゃんけん!!」」
「「ぽんっ!」」
「・・ちっ、あいこかよ・・・」
舌打ちの後神楽ちゃんがそうこぼす。
しかしわたしの方はというと、はあいこでよかったとほっと溜息をついていた。
なぜなら、今までじゃんけんで勝ったためしがないからだ。
家族とやれば、やるだけ負け、友人とやれば、やるだけ負け・・。
つまり。
わたしはじゃんけんが破滅的に弱いということ。
でも、この勝負負けられないんだから!(楽を手に入れるために!)
だからこんなにもドキドキと心臓がうるさいのは、緊張しているせいだ。
「いい?」
「ああ」
「「最初はグー!!!」」
「「じゃんけん!!」」
「「ぽんっ!」」
「・・・・・ぃぃやったぁッ!!!」
ありがとう神様!まだわたしを見捨ててはいなかったのねっ。
きゃーと歓喜するわたしの横で神楽ちゃんがorzの姿で落ち込んでいた。
「・・・まけた・・」
パーとグー。
言わずもがなわたしがパーで神楽ちゃんがグーだ。
「さあ、じゃあ今日は神楽ちゃんが食事当番ね。で、明日あなたはお風呂掃除。日替わりでよろしく」
「...後で後悔してもおれは知らないからな」
「またそれ?御託はいいからさっさと御飯の準備してくださいー」
「責任は取らないぞ」
こちらを睨み神楽ちゃんはドスドスと足音を響かせてキッチンへと入っていった。
でもね、神楽ちゃん。
そういうことは威張って言うことじゃないと思うの。
そんなことを思いながらわたしもお風呂場へと向かった。
この勝敗が、後に悲惨な事件を引き起こすとは知らずに。
* * *
「神楽ちゃん、ちゃんとできてるかな?」
ごしごしと風呂場を掃除しながら神楽ちゃんのことを考える。
三木氏の「おまえ1人では家がどうなるかわからん」発言が実はものすごく気になっているからだ。
「心配だなぁ」
そう思ったその時
ガッシャーンッッ!!!!!
「痛ぇ―――ッッ!!!!」
何かが割れる音と神楽ちゃんの悲鳴が部屋中にこだました。