「・・ちょっと散歩してくる」


そう言って神楽ちゃんが出ていったのは今から30分くらい前。


「肉がない・・」


冷凍庫を見つめてそうつぶやいたのはついさっき。



さあ、どうする?




8.買出し指令はメールにて




「肉がない、野菜もない・・」


そういえば昨日の朝、そろそろ買い物行かないとって思ったような気がする。
神楽ちゃんのことでバタバタしててすっかり忘れていた。
今日の朝だって実は昨日母が持ってきてくれたおかずがメインだったのだ。
冷凍庫も野菜室も開かなかった。
そして、さあお昼を作ろうかと冷蔵庫を開けたところで、肉も野菜もなかったということに気がついた。


「どうする、わたし」


買い物に行くのは正直めんどうくさい。
花粉だってたくさん飛んでいるし、今日は休日だ。
ちょっと都会なこの辺は、休日ともなると多くの人が訪れる。
ということで、人ごみに行くのもはばかられる。


「・・あ!神楽ちゃんがいるじゃん」


「散歩してくる」と颯爽と出て行った神楽ちゃん。
その時に、わたしはゲットしていたのだ。
神楽ちゃんの携帯のメールアドレスを!


「どこ行くの、神楽ちゃん?」
「・・あんたにはカンケーない」
「ふぅん。ま、いいけどねー。気をつけていってらっしゃい」
「...!?」


今までになくあっさりと引き下がったわたしを驚いた眼で見つめる神楽ちゃん。
君も相当失礼だな。


「何?別に、神楽ちゃんがどこに行こうとわたしに関係ないのは事実だし、お昼までに帰ってきてくれればそれでいいんだよね」


昨日初めて会った人のプライバシーを荒らすほど分別のない人間ではないよ、わたし。
・・・たぶん。

神楽ちゃんはわたしの言葉に何か言いたそうにしていたが、結局何も言わずじまい。
不思議に思ったのは束の間で、わたしはこう神楽ちゃんに言ったのだった。


「あっメールアドレス教えてよ。ご飯できたら教えてあげる」


こんな経路で手に入れた、アドレス。
すでに携帯には登録済みだ。


「ぜったいにメール見て怒るよね、神楽ちゃん」


思いながら、すでに携帯の画面にはメール送信中の文字。
要件は簡潔に。


宛先:神楽ちゃん
件名:秋です
本文:お肉と野菜を買って帰ってください。



これを見て眉間にしわを寄せる神楽ちゃんの姿がふと頭に浮かんだ。


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