『お守りだからね、なくしちゃいけないよ?』
『ありがとう、お兄ちゃん…!』
幼い頃のわたしが"何か"を大事そうに握りしめていた。
涙で濡れた顔に笑顔を浮かべて、わたしは…
だれと話していたんだろう。
ふ、と目が覚めた。
カーテンの隙間から陽の光が差し込み、微かに小鳥たちの鳴く声も聞こえる。
ベッドから体を起こして、侑妃は手を顔にやった。
どうして、こんなに懐かしい気持ちになってるんだろう。
どんな夢だったかも憶えていない。
それなのに、この懐かしさと切ない気持ちは‥。
そこではたと侑妃は気がついた。
「なんで、泣いてるんだろ…」
ポロポロと止めどなくあふれる涙。
膝に顔を埋めしばらく侑妃は泣き続けた。
* * *
コンコンッ
「失礼します。侑妃さま、もう起きられて――」
「‥グスッ‥おはようございます、夏さん」
何故か朝から涙を流している侑妃を見て、夏はドアノブを持ったまま固まってしまった。
「………」
「……あの、夏さん?」
「(はっ)ゆっ‥侑妃さま!!?どうかなさったのですか!?何処か具合でも……ッあああこんなに目が腫れて…!」
冷やさなければ!たっタオル!!水っ‥氷水ー!!!
あわわと青ざめて夏は急いで部屋を出て行った。
「あ、待って夏さんッ…!」
そんな侑妃の言葉も虚しく。
「はぁ…大したことじゃないのに……」
「大したことだろ」
「ひっ…う、わッ」
「ホームシックか?」
音もなく現れた燎の手が侑妃の頬をはさむ。
そんなわけない!放してよッ!と侑妃が紅くなった頬を隠すように暴れれば、燎はあっさりとその手を放した。
ちょっと拍子抜けしつつ、侑妃は燎を睨んだ。
「なんだよ」
「……あたしに軽々しく触らないで。それだけ」
「ふ‥」
「な、何よ?」
いきなり笑いをこぼした遼を侑妃は訝しげに見る。
遼は「いや、悪い・・・」と言って視線を侑妃に向けた。
「お前、それが本当の地か?」
「!」
瞬間目を見開き素早く口を押さえる侑妃。
「別に隠す必要なんかないだろうに。・・・周りの人間を信用するのがそんなに怖いか?侑妃」
「・・っ・・」
「まあ少なくとも?お前にとっては昨日初めて会った人間が信用できないのはわからないでもないけどな」
とても悲しそうに笑って、燎は侑妃の部屋から出て行った。
入れ違いに氷水をもった夏が入ってくる。
「侑妃さまっ。氷をお持ちし――!?」
夏の笑顔が凍りつくのが気配でわかった。
「・・んで・・・」
「侑妃さま・・?」
「・・・なんで・・・っ」
なんで、あんたの方が泣きそうなのよ。
「・・ふ、ぅ・・っ」
胸が痛い。
* * *
「どうかなさったのですか、遼さま」
「・・なぜそう思う?深山」
「え・・あー・・・何となく、です」
まさかさっきからため息ばかりついているからですとは言えまい。
「ふっ・・なんだソレ」
だが深山の返答に書類に向かっていた遼の顔にかすかに笑みが浮かんだ。
深山はその様子に眉をひそめたが、話題を変えようと明るい声を出した。
「そういえば加川さんはどこに行かれたんですか?先ほどから姿が見せませんが・・」
「あぁ、加川には少し用事を頼んだんだ・・」
そう言ったあと燎の表情が暗くなる。
「(話題失敗した!?)」
「はぁ・・・」
このあと自分の失言に頭を抱える部下とため息ばかりつく上司の姿が見られたそうな。
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