暗い山の中を1人の少女が歩いていた。
少女の服や靴はぼろぼろで、
身につけている服や靴はぼろぼろで、
ここ数日ろくなものも食べずに歩き続けていたせいだろう、意識も朦朧としている。
やがて少女はゆっくりとその場に倒れ込んだ。

薄れていく意識の中で、少女は近づいてくる馬車の音に気が付いた。
そして、馬車が自分の近くで止まったことに少しの希望を抱きながら少女は意識を手放した。



+ + + + +



フィスト国 宮殿

1人の軍人が部屋のドアをノックした。


「ルイ・ジョーンズ、ただいま参りました。」
「入れ。」


「失礼致します。」という言葉のあとにルイは目の前のドアを開けた。
その部屋には椅子に腰掛けて書類に目を通している国王がいた。


「陛下、話とは何でしょうか?」


若草色の瞳は書類から目を離し、そしてルイを見つめた。
瑠璃色をしたルイの瞳がそれを受ける。


「本日よりルイ・ジョーンズは第三部隊から第一部隊へと移動、
 および第一部隊副隊長に昇任、兼王女リースの護衛を命ずる。」


ルイはそれを聞き、驚いた表情を見せたが、すぐに普段の表情に戻った。
国王の命令は軍人にとって絶対的なものであるので、
いちいち驚いているわけにもいかないし、ましてや阻む事もできない。


「了解致しました。失礼致します。」


敬礼をし、振り向いて国王の部屋から退出しようとした。が、

「待て。」


国王の静かな声が室内に響く。
その声にルイは些か驚いたが、すぐさま国王の方を振り向いた。


「何でございましょうか?」
「本当に良いのか?戻るのなら今のうちだぞ・・・アリア。」


国王の言葉にルイの心が微かに乱れた。
瑠璃色の瞳は床へと向けられている。

だから、国王は気付かなかった。
その瑠璃色の瞳に迷いが滲んでいたなんて…――

ルイはすぐに迷いを打ち消して国王を見つめた。
「・・・おじさま、私は決めたのです。女ではなく男として、
 そして軍人として生きる。それが私の生きる意味です。
 ですから・・・その名はお忘れください・・・。」


ルイは偽名であり、実際はアリアという名の女であった。
魔法で男に姿を変え、軍人になっていたのである。


「だが・・・。」
「10年前おじさまとおばさまに助けられたことは大変感謝しております。
 しかし、私はやらねばなりません。自分を犠牲にしても。」


アリアは真剣な眼差しで国王を見つめ、
その眼差しを受けた国王はそれにおれてしまった。


「わかった、ルイ。もう行ってかまわない。」
「失礼致します。」


ルイは国王の部屋を後にした。
迷いを胸の奥底に封じて。



+ + + + +



自室に戻ったルイはソファーに横たわった。
国王の言葉がふと脳裏によみがえる。

自分は本当にこれで良いのか、
もっと違う道があったのではないのか、などと考えてしまう。
それでももう自分は自分の選んでしまった道に立っているのだ。

どうしようもない現実。
心に決めた決意。
今さら後悔なんてしていられない。


「やるしかない。」


ルイは起き上がり自室をあとにした。



+ + + + +



『第一部隊 隊長室』


ルイはそうかかれた扉の前に立っていた。
ルイは軽くノックをし、


「ルイ・ジョーンズでありますが、隊長殿にご挨拶に参りました。」


というと部屋の中から「どうぞ。」という声がした。


「失礼致します。」


といいながら扉を開けると、そこにはまだ20代前半であろう男が真剣な顔でいすに腰掛けていた。
ルイはそれを見てその場に立ち尽くす。
1番隊の隊長というのは隊長の中でも特に優れているものを起用する。
そのなかでまだ若い男がその座についているということは驚くしかないことである。
自然と表情がこわばる。


「どうかしたか?」


隊長の言葉にハッとした。


「いえ、何でもありません。」
「そうかそれならいいのだが・・・君が今回起用された副隊長か?」
「はい、ルイ・ジョーンズであります。」


緊張して何をしているのかわからない。


「そんなかしこまらなくていい。これからともに行動するんだ。」
「ですが・・・。」
「俺がいいっていったらいいんだ。」


先ほどとは違い笑顔で話しかけてくる。


「申し遅れたが、俺の名はウィリアム・ディーンだ。ウィルでかまわない。」
「よろしくお願い致します、ディーン隊長。」
「だから、普段はウィルでいいって言ったろ?」


ウィルはなお笑顔で話しかける。


「はい、ウィル隊長。」


いつの間にかルイの表情は和らいでいた。




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