「ばかだろお前・・・」


そう言って翔兄は私をさらに強く抱きしめる。
強過ぎて息が出来なくなってしまいそうなくらい。


「翔兄苦しい・・・」


すると力は緩まり腕の中から解放されて、
翔兄は真剣な眼差しで私を見て、口を開いた。


「俺がなんでお前を騙すんだよ」

「え・・・?」

「あいつは同じ学部の奴で道で偶然会って
 この間のレポートのこと話してただけだ!!」

「・・・」

「お前がよくて選んだのに、勝手に釣り合わないとか決めるな!
 俺だって小さい頃からずっとお前が・・・遥が好きだったんだ!!」


翔兄の思いが伝わってきて胸がいっぱいになった。
私は翔兄になんて事をしてしまったのだろう。
翔兄は私を思ってくれているのに、翔兄を疑った自分が憎い。


「ごめんなさい・・・」


今の私にはこれしか言うことが出来なかった。
そんな私を翔兄はそっと抱きしめて、また話し始めた。


「・・・いいよ・・・俺も悪いし、お相子」

「翔兄は、悪くないよ・・・?」

「お前を泣かせたから、悪いんだよ」


あぁ、この人はなんでこんなにも優しいの。
なのに私は翔兄にひどいことをして・・・。
こんな私には翔兄なんて勿体無いのに、翔兄は私を選んでくれて。

幸せ者だな、私。

そう思うと自然と笑顔になれた。


「えへへ・・・」

「・・・何気持ち悪い笑い方してんだ」

「幸せ者だと思って!」


翔兄に顔を覗かれて言われたから、そう見上げて言い返した。
すると翔兄は私から顔を逸らした。


「翔兄、照れてるんだ?」

「!照れてねーよ!!」


そんな翔兄は昔から知っている翔兄で。
5歳も上に可愛いなんて思うのっていけない事なのかな?なーんて考えちゃった。


「てかお前、いい加減"翔兄"って呼ぶのやめろ」

「なんで?」

「俺はお前の"兄的存在"じゃなくて、"彼氏"だろ?」


改めて彼氏だなんて言われると照れてしまう。
自分の顔が赤くなっていくのがわかった。
そんな私を見て翔兄は満足そうに微笑んだ。


「ひどい!!」

「先にからかったお前が悪い」

「もー!!」


こういうところは昔から大人気なかったな。


「これからは呼ぶなよ?」

「・・・わかった」

「じゃあ、練習がてら呼んでみて」

「え、今呼ばなきゃだめなの?」

「うん」


どうやらこれは免れないみたいで。
言えって言われて言うのは、恥ずかしくて言いたくないけど、
仕返しするためにとびっきりの笑顔で言ってあげた。


「翔平、大好きだよ」


その瞬間翔平の顔は驚いた顔になって赤くなった。
"大好き"だなんて言われると思ってなかったみたい。
そのつもりで言ったから、恥ずかしさより嬉しさが残った。


「今度こそ照れてないなんて言えないね?」

「・・・お前には負けるよ」


そしてお互い笑いあった。


「なぁ、遥」

「なに?」

「キス、していい?」


何を言われるかと思ったらそんなことで驚いてしまう。
今まで翔平一筋だったからキスなんてしたことない。
でも大好きな人と出来るのだから断る理由なんてない。


「・・・いいよ」


するとだんだん翔平の顔が近づいてきたので、そっと目を瞑った。



5歳も年が違っているから、普通なら平気だろう事も不安になって、
その不安から生まれた勘違いで傷ついて、そのせいであなたを困らせて。
まだ"恋人同士"になって少ししか時間は経っていないのに、色々なことがあった。
でもそのおかげで、お互いを今までより深く知ることが出来た気がするんだ。


そして今、私たちは何もかもを超えて口づけを交わした。




―Fin―


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