5.ゴールデンタイムのテレビ番組
ソファに座ってぼんやりとテレビを眺めるわたしの耳に、神楽ちゃんが洗い物をする音が入ってくる。
先ほどの気まずい空気は依然存在し、黙ったままでいるわたしと神楽ちゃん。
こうなる種をまいたのはわたしだけど、こういうときはどうしたらいいんだろう。
「なあ」
いつの間にかお皿洗いを終えたらしい神楽ちゃんが気づいたらわたしの横に立っていた。
びっくりして思わずのけぞってしまうわたし。
そしたら神楽ちゃんもびっくりしていた。
なんで、あんたが驚いてんのよ...。
「ぅわ...ッ!!び、びっくりした・・。どうかした?」
「あんた今テレビ見てる?」
「?ううん。何か見るの?いいよー、どうぞどうぞ」
そう言ってわたしが自分の隣のスペースを「ここに座れ」という意味をこめてぱしぱしと叩くと、
神楽ちゃんは一瞬眉根を寄せて隣とはいえども私からは何十センチも離れているところに座った。
うん、まぁいいんだけどね・・・。
「で?何見るの??」
そう尋ねるとなぜかぎくりとする神楽ちゃん。
なぜそこでそんな反応をするんだね、きみ。
「べ、別に何でもいいだろっ。あんたには関係ない」
「ふ〜ん。ま、なんでもいいけど...」
明らかに動揺している神楽ちゃんを不審に思いながら、チャンネルが変わる様子をぼうっと見つめる。
そして、神楽ちゃんが持っていたリモコンをやっと手放したとき、
「・・・ドラれもん・・・・?」
画面には子供たちに大人気のアニメキャラクターが映っていた。
「これ、見たかったの?」
「なっなんか文句あんのかよ」
「ううん、ないけど...」
意外だ。
* * *
「ううっ・・・なんていい話なんだ・・・・」
神楽ちゃんと一緒にドラれもんを見ていたわたし。
感動しすぎて彼の横で大泣きしてしまいました。
それはもう、ぼろぼろ涙をこぼしながらぐすぐす鼻をすすって泣くわたしのために途中神楽ちゃんがわざわざティッシュを取ってきてくれるほど。
「ドラれもん〜のび太郎〜・・・グスッ」
「いい加減泣きやめよ...」
未だに余韻に浸っているわたしを見て神楽ちゃんが呆れた様子で言う。
ちなみに彼も感動シーンで少し涙ぐんでいたのをわたしは泣きながら目撃した。
「神楽ちゃんも見たでしょ!?あのいつもはドジで弱虫なのび太郎が必死で頑張ってるシーン!!あのシーンが一番泣けた...って思い出したらまた泣けてきた....ッ.」
チーンッと鼻をかんでいると、神楽ちゃんがやっぱり呆れたように言った。
「なぁ、あんた女らしさっていうのはないのか?」
「なんで?」
「普通男の前でそんな盛大に鼻をかむ女がいるわけないだろ」
「?いるじゃん、ここに」
「...もういい...」
ハァとため息をつく神楽ちゃん。
わけがわからん。
でも、あの気まずい空気はいつの間にかどこかに消え去っていた。
→6.お子様タイムは終わりです