09.ずっとこのままでいたい



あれからどれだけ走っただろう。
周りを見渡すと自分の知らない景色が広がっていた。


「ここ、どこ・・・?」


何もかもに見放した気がして、
知らぬ間に止まっていた涙がまたあふれ出した。

どうしていいのかわからなくて
ただただその場に立ち尽くした。

ーあぁ、前にもこんなことあったな。

あの時こんな私を助けてくれたのは翔兄だった。
でも今翔兄はいない、いるはずがないんだ。
だがそのいるはずのない人の声が背後から聞こえた。


「遥!!」


その声に反射的に振り返ってしまう。
翔兄はあの時と同じように息を切らしている。
そしてあの時と同じように私を抱きしめた。


「な・・・んで・・・?」


なぜ翔兄がここにいるのかまったく理解できなかった。


「心配、したんだぞ・・・?」


抱きしめられているせいで翔兄の顔は見えないが
翔兄の声は震えていた。
そんな声を聞いたら何も言えなくなった。
しばらくして、その腕から開放されたけど
何も考えられなくて、ただ翔兄に導かれるまま、歩き続けた。

気が付くとそこは翔兄のアパートの前だった。
私たちは翔兄の部屋に入り、翔兄は私にコーヒーを入れてくれた。


「ん・・・」

「ありがとう・・・」


コーヒーを一口飲むと
どうやら体は冷えていたらしく
体の中で熱いものがながれるのがわかる。

それからしばらく沈黙が続いたのだけれど、
翔兄が沈黙を破り、私に訊ねてきた。


「・・・なんで俺がお前を騙してるって思ったんだ・・・?」

「えっと・・・」


いきなり聞かれたから正直何から言っていいのかわからなくて、
テーブルの上におかれた大分冷めてしまったコーヒーをただ見つめた。
でもちゃんと言わなくちゃいけない。
だから少しずつ思っていることを翔兄に伝えた。


「・・・金曜日の夕方、翔兄女の人といた、よね・・・?」

「・・・うん」

「翔兄とその女の人がすごくお似合いで、それに比べて私は釣り合わなくて!!
 よく考えたら翔兄が私みたいな子ども、相手にするはずがないって思って・・・。
 だから翔兄はきっと私を騙してるんだって・・・!!」


また涙があふれ出す。
最近泣いてばかりいる自分が情けない。
こうしてまた翔兄を困らせて。
何やってるんだろう、私。

そんな事を考えていると、また翔兄に抱きしめられた。

翔兄の腕の中はすごく暖かくて、
例え翔兄に騙されていたとしても、
ずっとこのままでいたい、そう思ったー・・・





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